リードトラック「m1素晴らしい世界」から始まるこのアルバム。イントロのアルペジオが鳴らされた瞬間に、これまで持っていたsuzumokuへのイメージは見事に裏切られる。一聴して明らかに”変わった”と感じる大きな開放感と鮮やかに突き抜ける迷いの無い歌声。きらびやかなギター。 前2作(コンセント/ プロペラ)のアプローチとはまったく違う。 より等身大の日常を独自な世界観で表現する歌詞・圧倒的な技術と人の心に突き刺さる歌声がクリアに表現されている。 suzumoku自身が困難を乗り越え、飛躍的な成長を遂げた事で、この変化は生まれた。そして、「m2ソアラ」の歌詞からも見て取れるように、一人でも多くの人たちに希望を与えたい、という”己”から”他”への視点の移行も、これからの活動に懸ける強い決意を感じさせる。今作は、アレンジャーに上田健司氏を迎え、主に札幌で、現地のミュージシャンを交えリラックスした雰囲気でレコーディング。 「m4街頭」で感じられるような、アットホームで暖かい空気感を残しながらも、時折現代的で先鋭的な質感で攻め込む絶妙のバランスは氏の貢献に寄るところが大きい。「m7夜明けの雨」はデビュー以前からしばしば歌っていた曲で、今回現代的にリメイク。 これらの曲で聞かれる絹のように滑らかなsuzumokuの声は他に類を見ず、老若男女を問わず感嘆させる。 suzumokuは2010年4月より、隔月第一金曜に「オルタナティヴ・ソリスト」なる弾き語りイベントをスタートさせる。「m5ストリートミュージシャン」で歌われているように、新しい世代のオリジナリティー溢れるシンガーソングライターたちのメッセージは何かを変える強い力を持っている。そういう彼らの動きが活発になって来ている事を受けてのイベント発足。たとえ3フィンガーで弾き語っても古くさいフォークにはならない。新世代と括ってしまうには安易ではあるが、「時代は常に変わっている」。suzumokuは「m8春の到来」でそう歌ってこのアルバムは幕を閉じる。