このアルバムは「家出少女」と「不良少年」の2 人を主人公に、悪辣な大人たちや、自堕落な女、彷徨う魂を抱えた少年など、数多くの人物が登場する「青春」をテーマにした群像劇である。
1 曲目から聴けば「家出少女」の物語として、また、最終曲から聴くことで「不良少年」の物語とも読むことができる。
ハッピーな曲は1 つも収録されていないにも関わらず、聴き終えた後にリスナーは、それぞれの「光」を見出すことになる。
それは、中村 中が常々言っている、「光を感じるには、闇が必要」ということなのだろう。
昨今、ややダークで骨太な文芸作品や映画が、高く評価されることが増えている。
閉塞感と無気力に支配されつつある今の時代に、「それでもなお生きている」という気持ちを確かめたい人々が増えているのかもしれない。
100年に一度の大不況といわれ、毎年自殺者が3 万人を越える今の日本で安直な励ましソングや癒しミュージックが空疎に響く中、“物語”であるこんなアルバムこそが、実は、生活者にとってリアルなのではないだろうか。