「こんなsuzumokuをずっと待っていた!」 最初に聴いた時、思わず唸りを上げてしまった。suzumokuの3枚目となるシングル「フォーカス」は、07年10月のデビューから約3年、そのディスコグラフィの中で初めてとなるラヴソングである。毎日の暮らしの中で徐々に更新されていく細かな景色の描写とふたりの恋愛感情の機微を重ね合わせた恋愛風景は、写真も撮るsuzumokuならではの繊細な歌詞で、聴けば「こんな suzumokuをずっと待っていた!」と興奮するファンやリスナーも少なくないのではないか。 そもそもsuzumokuはデビュー以来、ギターを片手に弾き語るスタイルを基本に、時にバックバンドを従えながらも、世に数多いるフォークシンガーとはひと味違うシンガーソングライターとして存在感が際立っていたアーティストである。たとえば、普通の軽音部とは違ってクラシックギターの部活にいたことで、フィンガーピッキングや速弾きという奏法の違いや高いギターテクニックを持っていること。声を荒々しく張り上げるわけではないが、幸福と共に不満や不条理も「リアルな感情」として淡々と歌い、紡いでいること。誰もがいつも目にしているような光景に、少し違った視点と角度を入れることで、四畳半の私小説的なフォークを一気に世代の歌や世界の歌へとスケールアップさせてしまうこと。たとえば先日suzumokuがUSTREAMで行ったスタジオライヴで初披露された新曲「モダンタイムス」はかなりキツい物言いも入っていたが、そういった表現ができるのも、suzumokuならでは、である(この曲については配信サイト「live szmk」で聴くことができるので、是非チェックしてみて欲しい)。 そんなsuzumokuが、「フォーカス」では真っ向からひねりのないラヴソングを鳴らしているのだ。誠実な愛の言葉をつぶさに綴った歌詞に相応しく、アレンジも、ギターは柔らかいアルペジオが通して鳴らされているものの、オルガンとストリングスをかつてなく大胆に全面に押し出したドラマティックなアレンジで、suzumokuの楽曲としては新境地である。途中、歌詞にはやといったフレーズも出てくるが、まさに秋の爽やかで永遠に続くような景色の抜けのよさと、ちょっとした淡い感情は、suzumokuにしか描けない世界観である。春の出会いの歌、夏の燃えるような恋の歌、寂しさに胸を焦がす冬の歌とラヴソングの形にもいろいろあるが、秋という季節に、こうして穏やかだがしっかりと芯のある愛の風景を重ねたラヴソングはあまり記憶がない。 suzumokuによるラヴソングの新しいスタンダード、是非、じっくりと耳を傾けて欲しい。 寺田宏幸(MUSICA) 撮り下ろし写真と書き下ろし歌詞付きフォトブック・シングル 2CDサイズ