suzumokuが生み出す音楽には、“陰”と“陽”の、ベクトルの異なる2つの要素がある。ひとつは、彼が音楽シーンに乗り込んだ最初の2作『コンセント』と『プロペラ』で見せていた、エフェクトなしのストレートなメッセージ性。これが“陰”のベクトル。その時それぞれに彼を突き動かした衝動が、言葉のトゲを隠すことなくダイレクトに吐き出された時、その楽曲には、耳からハートまで吸い込まれてしまうような磁波のような渦が、スピーカーの中でとぐろを巻いている。 もうひとつの要素は、2010年の3作目『素晴らしい世界』やシングル「アイス缶珈琲」等で見せたポップさやキャッチーさ。アンテナの感度が高い音楽ファンだけにとどまらず多くの聴き手にその名を知らしめるきっかけとなっているのは、こちらの“陽”のベクトル。ありのままの飾らない目線で描く歌詞が、共感へとつながっている。この路線のひとつの到達点が変形の紙ジャケットに身を包んだ作品「フォーカス」なのかもしれない。 そして、今回リリースされた『ベランダの煙草』では、その“陰”と“陽”が絶妙な割合で調合されて、さらにワンランク上のsuzumokuが誕生した。それぞれのベクトルの矢は、互いに刺激し合うことで、さらにその長さを増している。 例えば「モダンタイムス」。おざなりで短絡的な現代社会への痛烈なアンチテーゼを、75年前にチャップリンが工場の歯車に巻き込まれることで表現したメッセージになぞらえる。『コンセント』や『プロペラ』で聴かせた尖ったメッセージはより鋭く砥がれ、斬ることを超えて、もはやえぐるように聴き手に言葉を浴びせる、そんな硬派な楽曲。オープニングを飾る「身から出せ錆」と共に、このアルバムの“陰”の部分を象徴している。 “陽”の部分にあたるのは、「アイス缶珈琲」「ホープ」「フォーカス」といった一連のSg曲ということになるけれど、初出しとなる楽曲の中で印象的なのは「放課後スリーフィンガー」。タイトル通り、スリーフィンガー・ピッキングにのせて自らの学生時代を弾き語るシンプルな名曲。メロディの美しさと正確に弦をはじくギターテクニックの高さが耳に残る。 地元静岡のFM局、K-MIXでOA中のラジオ番組『レイニードライブ』に加え、本年からは北海道・FM NORTH WAVEと福岡・CROSS FMで新たにレギュラー番組『RAGTIME LIFE』がスタート。2月末からは10都市14公演、約2ヶ月におよぶ初めての全国ツアーが控えている。機械的にヒットソングが量産される、あるいはオマケありきのミリオンヒットが生まれる、そんな“モダンタイムスの歯車”のような音楽業界の中にあって、その歯車に決して巻き込まれることなく、着実に自分の音楽の根を張り、枝を伸ば続けている。 そろそろ、こんなホンモノがシーンの最前線に踊り出したって、少しもおかしくはない。『ベランダの煙草』を聴けば、彼のメッセージやメロディにそれだけのパワーがあることが、すぐにわかっていただけると思う。 高橋晃浩(Primal Switch Co.,Ltd.)